近年の経営学の知見によれば、経営が健全であるか否かは経営メンバーが健全であるか否かでほぼ決まります。 これは必ずしもメンバーの良し悪しに限らず、人数が足りているのか?という点も含みます。
経営力の一部は、実行力です。
こう表現すると中身のない比喩のように聞こえるかもしれませんが、実際にトップマネジメントと実行力、業績の関係を追跡した研究でこの構造が明らかにされています。
主に変革リーダーシップという媒介変数を通じて組織現場の集合的コミットメントに波及しています。
CEO分析からビッグファイブの開放性(連想の広がりやすさに関わる性格特性)・情緒安定性からの影響が確認できる一方、そのほかトップマネジメントチーム(CxOなど)は複数人の平均値となるためきれいな相関は抽出されていません。 また、トップマネジメントチームの外向性(活発さを測る性格特性)が高いと組織コミットが下がる関係と、在任期間の長さの影響も受けることが分かります。
このモデルは、CEOのみの組織コミット説明率が27%あり、他のトップマネジメントチーム(平均6.4人)を加えると47%に上がると報告されています1。 アウトプットの分散はすべてが制御できる要因ではなく一定の不確実性を含むので、経営チームのパラメータが企業行動の過半を制御している構造です。
経営の再現性は、ビジネスモデル側ではなく経営チームに主成分があるのです。 そして、何らかの必要な知識を前提とするスキルでもありません。
失敗や不都合な事件を定性評価する
ごく少人数の幹部で、企業の実行の大きな割合が決まることから、経営チームの健全性は実行不全の分析で把握できます。
先ほどの研究結果から、経営者の信頼性(誠実さに関わる性格特性)がキーファクターになっていることから、現場の規律の緩みに着目することがポイントです。 社内で起きたインシデント(好ましくない事象、とくに誠実さの欠如を感じる事件)をリストアップし、質の悪さの度合いを定性的に評価することで不足感を可視化できます。
どうやら人の集団には、本質的に無秩序な性質があります。 マネジメント発のコミュニケーションが到達していない部署では、ランダムに問題が起きるのが自然状態です。 特定した事件について、兆候も把握できていなかったようなものがあるとすると、経営チームの人員不足をかなり強く示唆しています。
草創期のワンマン社長体制から上級マネージャーを増やしてトップマネジメントチームへ体制強化する本質的な意義は、目的どおりの組織行動をとることです。
インシデントが発生している状況は、意図した行動に失敗するよりも一段悪い状態に位置づけられます。 また、CEOの意思決定は執行とは独立した業績決定要因と見られており、現場部門のコントロールで力を使い切ってしまっている状況であれば、まだ体制に不足があります。
トップマネジメントチームの役割は部門コントロールに関わる執行機能だけではなく、全社規模の決定を民主的に議論する主役でもあります。
従業員数の増加に応じて上級マネージャーの増員とチームワークが必要になるという法則は、部門コントロールについて自然に獲得した暗黙知と言えます。
「経営者は孤独」と言われることもありますが、それは一般論ではなく、むしろ指揮系統が健康的ではない状況を示しています。マネージャーとのコミュニケーション不良は人選で解決すべき課題です。
性格を測れば傾向は分かる
企業の組織行動は、かなり主要な部分が各メンバーの性格特性で説明できることが分かってきています。 これは、ビッグファイブ(信頼性・情緒安定性・開放性・外向性・協調性)が特定され性格を高精度に記述できるようになったことによるブレークスルーです。
人格を過不足なく捉えられるようになったため、適材適所をビッグファイブの要求パラメータとして設計できるようになりました。 業種・職種ごとに適したパラメータを観測することが人事の主要テーマとなっています。
職場の同僚どうしの相互評価により、ビッグファイブを手軽に計測できます。 ビッグファイブは人がもっとも良く知覚している性格指標であるため、日常的に接している人物は誰でも評価できます。 Deciderは学術研究と同じ相互評価方式の分析を、世界で初めて商用SaaSとして提供を開始しました。
ビッグファイブは5つの指標を総合することが重要なのですが、例外的に誠実さに関わる信頼性だけは切り出して普遍的なアウトラインを議論できます。
これは経営学の研究の蓄積から、次の事実が分かっているからです。
- トップマネジメントの信頼性の水準がダイレクトに好業績に比例する部分がある
- 幅広い職種で仕事のパフォーマンスにもっとも関連するのは信頼性である
業績については、次のようなモデルが見出されています1。
トップマネジメント個々人の信頼性が高ければその規律が現場に波及して組織行動に統制がとれる、という関係を読みとれます。 経営チーム組成のセオリーとして、信頼性の高い人物を選抜することが重要です。
性格は属人的な性質で、長期間にわたってほぼ変わることがありません。 よって、経営チームの素材は採用時点のプールで決まっています。 「それなら採用選考で信頼性の高い人物ばかりを採用すれば良い」と考えるかもしれませんが、それは現実的ではありません。
これは計測してみればすぐに分かることですが、ビッグファイブには大きなバラつきがあります。 信頼性を高い方向に限定してしまうと、人員を思いどおりに増やすことができなくなります。また他の4つの性格指標も職務適性と関係があるため、捨て去るわけにはいきません。
マネジメントとは、一部のリーダーの優れた資質を確保することによって、他のメンバーの性質のバラつきを統制し、集団行動をスケールさせる技術なのです。 そのため、リーダー候補の採用に配慮することと、昇進選考を取り違えないように計測を徹底することが重要になるのです。
なぜ信頼性が高いと業績が上がるのか?
トップマネジメントの性格が企業の業績にダイレクトに影響しているという事実は、ビジネスに対する従来の捉え方を書き換えるインパクトがあります。
部分的とはいえ、どのように行動したかではなく、何者なのかによって市場の生き残りが決まっているというのです。
これまで「市場には何らかの戦略が存在し、戦略の善し悪しが業績に影響を与える」という間接的なモデルが大前提でしたが、どのような戦略があるのかを探索する見方には死角が残されていました。
具体的には、信頼性と業績の間にかなり強い線形の関係を見出しています。何が起きているのでしょう? 詳細な因果関係は今後の研究で解明されていくでしょうが、信頼性の性質から仮説立てることは可能です。
次のような損失関数を持つトラブルでモデル化しましょう。
| 選択 | 結果 |
|---|---|
| トラブルに対処する | 損失10 |
| トラブルに対処しない | 70%の確率で損失20、30%の確率で損失なし |
トラブルに対処する場合にはつねに10のコストを支払うことになります。 対処しない場合は、損失が起きないことを期待しつつ、じっさいには期待値14の損失の支払いを迫られる展開になります。
すべてのからくりを知ったうえで合理的な選択をするならトラブルに対処する方が得です。 しかし、限定された合理性のバリエーションとしてトラブルに対処しない選択を多く採るということは起き得ます。 たとえば、信頼性が高い人物はトラブルの可能性を放置したくないと捉えやすいため対処する傾向が強く、信頼性が低い人物は労力を支払うことを避けたがるため対処しない傾向が強い、という説明が成立します。
この例は単純化していますが、対処する場合の期待損失よりも対処しない場合の期待損失の方が大きいような任意の関数に同じ効果があります。 イソップ物語の『アリとキリギリス』も派生型に含まれます。 また、対処しない場合の損失の確率と規模が分かっているからこそ期待値を比較できますが、実際のシーンでは確率関数は未知であり「トラブルに対処すると業務効率が落ちる」ような外観を呈しています。
これはもちろん仮説モデルですが、このような確率的な損失事象がたくさん起きている環境なら、信頼性と業績の線形性は高まります。
このモデルには損失と利得を裏返したモデルも考えられます。
| 選択 | 結果 |
|---|---|
| 機会をつかもうとする | 30%の確率で利得20、70%の確率で利得なし |
| 機会を見送る | 利得0 |
設定パラメータは損失と異なりますが、機会をつかもうとすることの期待値6は機会を見送る選択よりも大きいので、損失モデルと対になっています。
このモデルの行動選択は、信頼性ではなく外向性が関わることから、現実にはこの形式のイベントはあまり起きていないことがうかがえます。
組織コミットがトップマネジメントの外向性と負の相関であることからも、業績ノイズ要因であることがうかがえます。
この2つの仮説モデルを総合すると、現実の経営環境を次のように描写できます。
- 損失を引き起こすイベントは無数に起きる
- 利得機会をもたらすイベントは少ない
- 信頼性が高い人物が予期する損失の可能性とアクションは、背後に隠れた損失期待モデルをうまく捉えることが多い
- 外向性が高い人物が予期する利得の可能性とアクションは、背後に隠れた利得期待モデルをうまく捉えないことが多い
冒頭の説明のとおり実行力は幹部が多くを供給していることから、損失イベントの無視できない部分が現場の無秩序な行動から生じていて、幹部が対処しない/できないという選択は期待値の面で高くつく、というメカニズムが存在すると考えられます。 神の見えざる手は投げやりな仕事を許容しないのです。
結論として、トップマネジメントの主な役割は、痛みを伴う損失の分配を基調としています。 格言としては語りつがれてきたことではありますが、無数の痛みにとり囲まれている、という過酷な環境はあまり脚光を浴びてこなかった現実でしょう。
アカウンタビリティの民俗学
アカウンタビリティはマネージャーの基本的な責任と認識され、マネージャーが上司や関係者に理解できるよう説明することは当然の前提です。
アカウンタビリティは、マネジメントのルールとして捉えられますが、信頼性に由来する資質として理解することも可能です。 信頼性の高い人ほど、何らかのアクションをとる際につねに原則やルールが強く割り込んできます。 また同じことの言いかえとして、他者に理解されない、説明のつかないようなことを嫌う傾向が強まります。
つまり信頼性の高い人物は、あらゆる行動の際にルールを意識してどこまで説明がつくかに着目しているため、自然にストーリーができあがっており、他者に説明することが当然であり必要と考えています。 これは自然な挙動ではありません。 相対的に信頼性の低い人から見れば、わざわざ回りくどい考え方をしているように見えるはずです。この違いが性格の直接の影響です。
マネジメントでは説明を重視してルールとして課すわけですが、説明の良し悪しには個人差が出ます。 そして、個人差は性格由来であるためアカウンタビリティの低い人の説明が根本的に改善することはないでしょう。 よってルールでありながら現実には必ずしも徹底されているわけではなく、個々人が可能な範囲で説明することがある、といった民俗文化の違いが生まれます。
これは経営学の研究成果と整合しており、推奨方針は明確です。 つまり、ビジネス競争に生き残りたいのであれば、マネージャーには信頼性の高い人物が必要であるということです。
かつてはビッグファイブのような直接の計測手段がなかったため、アカウンタビリティという行動ベースのものさしが必要だったのです。 アカウンタビリティは各人ができる範囲で実行する努力目標ではなく、マネジメント組織の健全性を測るシグナルです。
そのバラつきは組織全体が無秩序に侵食されつつあるという兆候であり、優先度の高い戦略課題なのです。