「問題意識」は社長・役員層のトップマネジメントにとって、本業でありコアスキルです。
ビジネス上の問題意識とは、未来のある時点に自社の状態を現在とは異なる状態に持っていく、という必要性を強く感じることです。
典型的には、以下のようなものがあります。
- 現在の延長線上に起こりうる不利な事象と、そのタイミング
- 市場や顧客の自社受容(満足度、購買意欲など)の至らない点
- 会社がやりたいことの達成見通し
- 結末は予測できなくとも、競合他社にはできていて自社にできていないこと
- 繰り返し起きているトラブル。途中で立ち消えている実行プラン
こういった問題意識を適切に設定できずにいると、競争環境からズレた目標を目指すことになりかねません。
間違った目標に対してどんなにハードワークしようと、間違った場所に素早く到着できるだけです。
とくにスタートアップ、中小企業の場合、メンバー比で過多なタスクを設定しがちなため、実行だけに終始してしまい、問題意識そのものをうまく持てないケースが起こりがちです。
「忙しい=心を亡くす」というのは、問題意識を忘れ、駆けずり回ってはいるもののゴールに到着しない状況を指すのだと思います。
これは典型的な中小企業病です。
また、目的が発散して仕事の意義を見失ってしまい、「それだったら何もしない方がマシだ」ということで、もはや実行すらしない、ということも起こります。
これが大企業病です。
問題意識は一朝一夕に育成できない
このように企業が「何をすべきか?」を決定する問題意識は、成功の前提条件であるため、一番最初に手に入れたい資源・能力です。
ただ、成長論・上達論の視点から見ると、都合の悪いことに、問題意識を獲得できるのはどうやら一番最後のようです。
何をなすべきかを決める能力については、リーダーシップ論で研究されていますが、これといって定まった具体的な方法論がありません。
感覚的には、仮説思考(abduction)と検証を繰り返すことで、判断ルールの辞書が充実して問題意識が高まるのだと思っています。
ただ仮説思考は、1)これから起こることを予め自分の頭でモデル化する、2)実際に起こった現象を材料にして事後にモデルを修正する、という作業が必要になります。
これは経営者にとっては当たり前の段取りですが、大多数のビジネスマンは、通常の仕事にこのようなプロセスを追加することはほとんどありません。必要性を感じていないという問題もありますが、自分の頭を使って考えることを極度に避けるのです。
「問題意識、当事者意識が足りない」「リーダーシップが必要だ」というお題目を掲げても、日常的に自分の頭を使っていなければできるようにならないし、上達には時間もかかるのです。
ストーリー・テリングが上達の第一歩
実践的には、問題意識欠乏症の組織に対する処方が重要です。
結論的に言うと、課題設定に難のあるチームにできる次善策は、「異論の収集」だと思います。
問題意識は、将来の潜在的な危機に関する解釈なので、その材料をチームから集めることができれば、考えるきっかけをつかめます。
じっさいに現場には、断片的な危機意識や不安を持っている人はいるもので、その部分の見通しは的確であったりします。
ただその問題意識の種も、話題がセットされなければその人の中で立ち消えていきます。
職場の人間関係は緊張度が高く、決められた仕事を終えることに強く意識をとられるものです。
そこでマネジメント技術としては、近未来の見通しを語る**「ストーリーテリング」によって、チームのメンバーに見通しのズレを指摘してもらう**ことが有効です。
話題の例として、以下のようなものが考えられます。
- ある案件でうまく行っている話を聞いたので、全体的にうまく行く気がしている
- このようなトラブルがあったと報告を受けたが、前にも似たような話があったと思う。また起こりうるのではないか。
- 前回の結果は◯◯、今回は××で、頑張ったものの結果が良くない。何か路線変更しなくてはいけないかもと感じている。
問題のポイントがつかみづらい場合には、このようにひとまず現状の延長で”問わず語り”をするしか手がありません。
それでも、メンタルモデルの修正を呼びかける行動を続けていれば情報は集まってきます。
一点、この形式で注意すべきことは、「間違っているかもしれないから、違う意見をもらいたい」と明示的に言うことです。
ストーリーが仮説ではなく大本営発表になってしまうと、むしろ思考停止が進行してしまいます。
上達するにつれ「問い」に慣れる
リーダーシップ論の本に共通して描かれているのは、経営者は非公式なコミュニケーションを好み、質問をよく使う、ということです。
なぜそうなのか?という点を掘り下げたものは見かけないのですが、経験的には理解できます。
現状路線の仕事はミドルマネジメント層に任せれば良いので、組織が一定の健康度を保っている限り、公式の職制ルートを使う必要性が低いのだと思います。
また、質問を多用するのは、そうすることで効果的に状況認識できるからでしょう。
問題意識の発達した人であれば、未来に起こりうる複数の仮説のうち可能性の高いものを見分ける前提条件を理解しています。
そのため、前提条件を確認する質問を現場に問うことで、探偵小説のように短時間で高精度に状況を理解できるのです。
「問い」のメリットは、高い確率で回答を得られることでしょう。ストーリーテリングで引き出せる情報もありますが、明示的に聞かれないとうまく答えられない、というものは残ります。
一方、難点は、聞き方によって情報の有効性が著しく変わる点です。最初の聞き方が悪かったために間違った結論に到達する危険があります。
適切な問いを作ることはスキルであり、上達論的にはゴールと言えます。
比較的精度の高いモデル仮説を考えられるようになるまでは、仮説を限定せずに語るストーリー形式を併用して、判断材料の事例を蓄積することが有効と思います。