ビジネスは正確な状況判断力が命です。
とくに起業家・経営者などのトップマネジメントは、状況判断そのものが仕事内容の中心と言えます。
誰しも「判断力を高めたい」と考えているかと思いますが、いまのところ確たる方法論は見当たりません。
ただ実際のケースを眺めていると、状況判断力を阻害するアンチパターンがあって、それは「詭弁」的な物の考え方のように思います。
論理学のうちのごく初歩的な考え方を知ることで、詭弁を避け、判断の精度を上げていけるのではないかと考えています。
よく見かける詭弁のパターンとして、「二分法」「トートロジー」「飛躍」という3つの誤りを検討しましょう。
詭弁1:「あれか、これか」の二分法
「誤った二分法」(false dichotomy)とは、行動を考える際に2つしか選択肢を考えず、しかもその2択がすべての可能性を表していない場合に起こる判断ミスです。
たとえば何か高額な機材を調達するとして、「買うべきか、買わないべきか」と考えるようなケースが考えられます。
ただ、実際にはレンタルやリースといった借りる手段もあります。
見る人が見れば「調べればすぐ分かることなのに」と言いたくもなりますが、当人としては一見選択肢を網羅していると錯覚していて、視野の狭さを意識することが難しいのです。
このパターンにはまる人は、「他に選択肢はない」「やらない手はない」「◯◯するにはリスクが大きい(からやらない)」といった口グセを持っています。
このような誤った二分法については、選択肢の検討段階で他の人の意見を聞くことで修正していけるでしょう。
詭弁2:矛盾がなく無敵だが無意味なトートロジー
「トートロジー」(tautology)は同義語反復、つまり同じことを2回繰り返して言うスタイルの詭弁主張です。
たとえば「満足度が高い商品には、人気がある」「緊急課題には、対応しなければならない」といったような主張があります。
注意して観察すると「、」の前と後ろのワードが同じようなことを指していることに気づきます。
この言い回しには矛盾がないので、そこだけとると反論の余地がないのですが、じつは単に強く言ってみたに過ぎず、無意味なロジックなのです(というよりロジックではない)。
トートロジーの問題は抽象的な話に終始して、現実と無関係な思考に閉じこもることにあります。
人間の脳は繰り返し考えることでそのように神経回路が形成される傾向があるようで、トートロジーにはまってしまうと最悪は自己暗示にかかります。
僕は過去に4人ほど顕著な人物の実例に接しましたが、自己暗示にまで進行してしまうと、ナチュラルに他人をだましたり搾取するところまで行きます。
こうなってしまうと普通の人には太刀打ちできず、どんどん孤立していき出口を失ってしまいます。
トートロジーの入口は、理念や政治的権威といった抽象論です。
できるだけ具体的な目の前のケースを踏み外さないように注意することが合理的判断の第一歩なのです。
詭弁3:一部のできごとを一般化する「飛躍」
論理の飛躍の典型的な例は「早まった一般化」(hasty generalization)です。
これは、ある事象に遭遇した場合や、聞いてきた目新しい話をもとに、全体がそうなっていると思い込むようなケースで、比較的わかりやすいパターンだと思います。
人物特性の特徴でいうと、一喜一憂しがちであったり野次馬的であったりします。
このような飛躍も一見もっともらしいので、はまってしまうと気づきづらい面があります。
論理学では、以下のように一般的な命題と、一部の存在を区別する記号を提供しています。
- ∀(全称命題
- すべての◯◯は××で
- ∃(特称命題
- ある◯◯は××で
何かを思いついたときに、それが「∀:すべての◯◯」なのか「∃:ある◯◯」なのか、言葉を補って考えることで、どちらにより近いのかを意識しやすくなると思います。
……まあ実のところ、よほど前提条件を制御しない限り、∀ということはほとんどなく、∃なんですけどね。
「世の中そんなに甘くないよ」と言いたくもなりますが、上達論的には自分の頭で一つひとつ考えないと定着しないので、具体的なケースで練習していきましょう。
まとめ:状況判断力を上げるには、動け!
「二分法」「トートロジー」「飛躍」と、典型的な詭弁が判断を誤らせるケースを取り上げました。
このような思考のクセを抱えたままだと、どれほどケースを積み上げても何も学べないことが理解できたのではないでしょうか。
最後にまとめとして、「詭弁家は怠惰である」ということを付け加えたいと思います。
ここまで述べてきたケースにも表れているとおり、詭弁症状に陥る人はだいたいロクな活動もせずに机上で結論を出そうとしています。
主題に戻って、状況判断力を高めるためにはファクト・ファインディングの活動を積み上げることが、遠回りのようでいて確実なのです。
「判断力は経験によって養われる」というのは、このような背景によるものと考えられます。
ただし、活動の前に仮説を持っておきフィードバック修正していく「仮説思考」(abduction)によって判断を早めることは可能だと思います。
詭弁の最大の問題は、実態に合わない2つ程度の要素で雑にすべてを説明しようとする態度にあります。
これが、ロジックツリーのように10個程度の構造化された要素で描き起こすと意外に実態にフィットしたりします。
この5〜8個程度の微妙な差が、成功と失敗を大きく分けるのです。
ひょっとすると、”マジカルナンバー7″(ヒトは同時に7つ程度の事柄しか覚えておけない)として知られる脳の短期記憶の制約がその原因なのかもしれません。